コラム 2021年

2021/12

2023年10月からインボイス制度が導入へ。制度の基本と済ますべき対応を解説します

インボイス制度とは

2019年10月から消費税率が10%(食料品など、軽減税率適用の場合は8%)に引き上げられました。その変更と同様に調整が進められてきたのが、インボイス制度です。正確には「適格請求書保存方式」と言いますが、インボイス制度が広く通商として使われています。

一言でまとめると「一定の条件を満たした請求書を使って消費税を計算し、納付する制度」といったところでしょうか。

そもそも、なぜこのような制度を導入することになったのか、背景を説明しましょう。先ほど触れたように、現在、消費税は原則として10%ですが、8%の軽減税率が適用されることもあります。そして、モノ・サービスを売る際には「この商品に適用されている税率は〇%です」と伝えなくてはいけません。伝えると言っても、口頭ではなく、紙やデータで残すところまでやらないと、消費税の正確な額なんてわかりません。

結果として「購入したモノ・サービス対して適用された消費税率・消費税額を請求書に明記する」ことを求める制度として、インボイス制度が導入されることに相成りました。

インボイス制度は消費税を計算し、納付する必要がある事業者=消費税の課税事業者を前提とした制度です。最低限、自分が営んでいる会社がこの要件に合致しているかは確認しましょう。1つの基準として「1年間の課税売上高が1,000万円以上」であるかがポイントとなります。


対応が遅れると案外怖いことが起こります   

そして、消費税の課税事業者であれば、インボイス制度による「適格請求書発行事業者」として登録を済ます必要がでてきます。細かい部分は省きますが、従来の「発行者の氏名・名称」「取引年月日」「取引内容」「受領者の氏名・名称」「軽減税率の対象である旨の表記」「適用税率ごとに区分した合計額」に加え、「インボイス制度の登録番号」「適用税率」「適用税率ごとの消費税額の合計」の3つの項目を新たに加えた請求書を発行しないといけません。

面倒臭い、といってこの対応を怠ると、何が起きるのかについても押さえておきましょう。

知っている人も多いかもしれませんが、消費税は「預かった消費税から支払った消費税を引いて(仕入税額控除)、その差額を国に納める」のが基本です。 しかし、インボイス制度を導入すると、「適格請求書を発行できる事業者から請求書を受け取れること」が、仕入税額控除を受けるための条件となります。

モノ・サービスを仕入れる側からすると、仕入税額控除を使えないというのは大きなダメージになるため、自然と「だったら、適格請求書をちゃんと発行してくれる会社と取引しよう」という心理になってもおかしくありません。自分の会社が「選んでもらえる会社」になるよう、税理士などの専門家と連携し、早めに対応を進めましょう。



2021/11

若手クリエイターの作品で節税ができる!美術品等の減価償却のルールを知っておこう

さすがに123億はキビシイものの

当時TBS記者だった秋山豊寛氏以来、2人目の民間人宇宙飛行士として宇宙に行くことが決まった実業家の前澤友作氏。実は彼は、絵画を中心とした芸術作品の収集家としても知られています。2017年には、アメリカの大手オークション業者・サザビーズがニューヨークで行ったオークションで、アメリカ人画家のジャン=ミシェル・バスキアの絵画を約123億円で落札しました。

もちろん、ここまで大がかりな投資を美術品にするのはなかなか厳しいかもしれません。

しかし「オフィスに置く調度品は自分の好きなものを選びたい」「実は美術品に興味がある」という人は、上手に美術品を購入することで、節税ができることも知っておきましょう。

実は、平成27年に法人税上における美術品等の扱いが変更になり、1点の取得価額100万円未満の美術品等であれば、減価償却資産として扱うことができるようになりました。結果として節税につながるわけです

1点ごとの金額により扱いが違うので注意を

そこで、具体的にどのようなルールで減価償却が行われるのかについて解説しましょう。まず、取得価額10万円未満の場合は、いわゆる「少額の減価償却資産」として扱われます。

つまり、事業の用に供した事情年度において、その取得価額の全額を損金の額に算入できるのです。「事業の用に供した」とありますが、購入して、オフィスに飾った年と考えましょう。

次に、取得価額が10万円以上20万円未満の美術品等の取得をした場合は、3年間で取得価額を全額損金に算入することができます。また、取得価額が30万円未満の美術品等であれば「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」に従って経理処理することが可能です。

また、100万円未満で器具及び備品に相当する美術品等であって、金属製のものであれば耐用年数15年で減価償却が可能です。一方、金属製以外のものは、耐用年数8年として減価償却することになります。

いずれにしても、美術品等を用いて節税をする場合は、1点ごとの金額を正確に把握することが大事です。いわゆる「若手クリエイター」の作品であれば、比較的安く手に入れられる上に、掘り出し物が見つかるかもしれないので、興味がある方は検討し、節税にも上手に活用しましょう。

2021/10     

オフィスを引っ越すなら「地域未来投資促進税制」は要検討。概要と利用条件を簡単に解説します

コロナ禍で地方移転もアリになりました

2020年初頭から日本を含めた世界中を混乱に巻き込んだ新型コロナウイルス感染症も、全国民の半分がワクチンの2回目接種を終えたり、自宅療養中でも治療が受けられる体制が整ってきたりなど、着実に一歩一歩良い方向に進んでいます。しかし、企業にとっては「外出がままならないほどの災害が起きても、できるだけ通常業務を止めずに対応できる体制を作り上げること」が重大な経営課題として残りました。

もちろん、企業の業種や規模、経営者の考え方によって異なるので一概には言えませんが「テレワークを本格導入する」「首都圏にあった本社機能の全部・一部を地方に移転する」など、様々な方策が考えられます。後者の具体例として、通信販売大手「ジャパネットたかた」で知られるジャパネットホールディングスが、主要機能を福岡市に移転するなどの取り組みを行っています。

企業にとっては、首都圏に本社機能を集中させないことで、感染症の拡大などの災害が首都圏で起きたとしても、通常通り業務を進めることができます。また、移転先となる自体にとっても、税収が確保できる上に、雇用の創出にも役立つため「どちらにとっても良い話」かもしれません。

地域未来投資促進税制とは

国は、地域の特性を生かして、高い付加価値を創出し、地域経済を牽引する事業への積極的な投資を推進することを目的に「地域未来投資促進税制」を設けています。

簡単に言うと、条件を満たした上で地方に拠点を移したり、新しい事業所・工場などを経てて人を雇ったりなどすれば、機械装置や器具備品、建物・建物附属設備および構築物について特別償却(最大50%)、税額控除(最大5%)が受けられる税制です。なお、令和5(2024)年3月31日までに事業の用に供した資産について適用が可能となるため、これから地方へのオフィスの移転を考えている場合でも、早めに動けば十分に間に合います。
なお、実際にこの税制を使うためには、最初に都道府県知事による地域経済牽引事業計画の承認を受けなくてはいけません。つまり、基本計画が「地域特性の活用」「高い付加価値の創出」「地域の事業者に対する経済的効果」の3つを満たしているかが問われます。

また、これをクリアしたら、次は国による課税特例の確認を受けなくてはいけません。「先進性を有する」「総投資額が2,000万円以上である」「前事業年度の減価償却費の10%以上の投資額である」「対象事業の売上高伸び率がゼロ超、かつ、過去5事業年度の対象事業に係る市場規模の伸び率が+5%以上である」の4つの条件を満たしているかがチェックされます。

「機械装置、器具備品、建物、建物付属設備および構築物で、その取得価額の合計が2,000万円以上のもの」に対してこの制度使える上に、限度額が80億円までとかなり大きいため「オフィス機能を地方に移転する」ときには積極的に活用したい制度です。早めに税理士に相談しておきましょう。
     

2021/09

役員賞与ゼロでも税務上の処理は原則必要。早めに返上を決断するならやるべきことは?

長引くコロナ禍の影響はこんなところにも

2020年初頭から流行し始めた新型コロナウイルス感染症により、小売業・飲食業を中心に、多くの企業が大幅な減収・減益に見舞われています。特に、飲食業は東京都・大阪府などの大都市において度重なる緊急事態宣言・まん延防止等重点措置による営業時間の短縮、酒類提供の自粛を求められていることから、深刻なダメージを受けているのが現状です。なお、民間調査会社・帝国データバンクがまとめたところによれば、2020年の飲食店の倒産件数は780件にも上りました。同社によれば、これは調査を開始して以来過去最多の水準とのことです。

参照:https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p210101.pdf

そして、倒産という事態にまでは至っていないものの、様々な策を講じて、事業の継続に奔走している事業主はたくさんいるでしょう。「自分のことは良いので、頑張ってくれているスタッフに給料を払わないと」という気持ちで、役員賞与の返上を考える事業主もいるはずです。確かに、従業員にとっては「うちの社長、ありがたいな」と思ってもらえるかもしれませんが、税務上は慎重な対応が必要なので注意してください。

会計上の影響はゼロでも税務上の影響が生じる

本来、役員賞与に関しては、事前確定届出給与として税務署に届出を行うことで、損金算入が可能となる仕組みです。つまり、株主総会で決議を行った上で議事録を作成し、期限までに所定の事項を記載した届出書を提出た上で、届出書に記載された時期と金額が完全に一致した形で役員賞与が支払われれば、損金として認められます。

このため、新型コロナウイルス感染症の影響で「役員賞与は返上します」という話になった場合は、損金算入するための前提が狂ってしまうのです。会計上は「役員賞与は出さなかった=金銭も動かなかった」ので特段仕訳をする必要はありませんが、税務上は仕訳をしておかないとNGなので注意しましょう。

わかりやすい例えとして「株主総会で決議された役員賞与支給額を200万円としていたものの、業績の悪化が見込まれるために支給自体を取りやめた」場合、「(借方)役員賞与 200万円 (貸方)未払金 200万円」「(借方)未払金 200万円 (貸方)債務免除益 200万円」という仕訳が必要になります。

ただし、これらの処理を行わなくてはいけないのは「支給日の後に支給を取りやめた(返上することにした)」ケースです。仮に、支給日が到来するまえに、取締役会等で全額不支給の決議を行い、返上することを決めていた場合は、税務上の処理も必要なくなります。

なお、事前確定届出給与については「やむを得ない事情」に該当すれば、業績悪化改定事由・臨時改定事由があったものとして、ゼロにすることを含めた減額が認められる可能性が高いです。新型コロナウイルス感染症を理由とした経営状態の悪化も「やむを得ない事情」に該当する可能性が高いので、一度税理士と相談し、どう進めていくかをすり合わせておきましょう。
     

2021/08

これからの経営は効率化と生産性向上がカギに。DX投資促進税制を上手に使おう

DX化と言ってもお金がかかります

最近、注目されている言葉の1つに「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」があります。本来は、「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念を指す言葉です。しかし、会社経営との関連においては「ITを活用して、業務の効率化や生産性の向上を図ること」という意味合いで使われることが多いようです。

2020年初頭から世界中で流行している新型コロナウイルス感染症の影響や、いわゆる「働き方改革」の流れもあり、DXに注目する企業は多くなっています。しかし、何をやるかにもよりますが、ある程度はまとまった金額の投資が必要になるのが実情です。安い買い物とは言い難いために「いかにして、会社としての出費を抑えつつ、期待する効果が上がる設備を導入するか」がカギになります。

やはり、本気で取り組もうと思ったら、専門のコンサルティング会社に相談し「自分たちのビジネスにおいて、業務の効率化・生産性の向上を達成するためには、何をすれば良いのか」を洗い出すことが必要です。

DX投資促進税制をうまく使おう

また、本気で取り組むなら「使える補助金や制度はないか」にも目を向けましょう。DX化を検討中ならDX投資促進税制も役に立つはずです。簡単に言うと「一定の条件を満たす対象設備を導入した場合は、税額控除(3%または5%)ないし特別償却(30%)を講じることができる」という税金上の優遇政策です。

令和3年税制改正において、クラウド技術の活用、セキュリティの強化、レガシーシステムからの脱却などを目的として定められました。なお、適用期限は2023年3月31日までとされています。なお、投資額の下限は売上高比の0.1%以上、上限は300億円です。また「カーボンニュートラル投資促進税制」も併用する場合、税額控除の上限が当期法人税額の20%までになるので注意してください。

また、この税制を使える投資になるかどうかの要件(認定要件)には、大きく分けて「デジタル(D)要件」と「企業変革(X)要件」があります。前者をさらに細分化すると、1)データ連携・共有、2)クラウド技術の活用、3)「DX認定」の取得の3つが求められると考えましょう。一方、後者は、1)会社の意思決定に基づく、2)一定以上の生産性向上などが見込まれるという2つの要件を満たすこと、と考えるとわかりやすいはずです。

なお、実際にこの税制の適用を受けるためには、産業競争力強化法に基づいた「事業適応計画」を主務大臣に提出し、その内容が認定要件を満たしているかの審査を受けないといけません。コンサルティング会社に相談することはもちろん、早いうちから税理士とも連携を取り「いつ、何をすれば良いか」を考えて動きましょう。
           

 2021/07

従業員のために使う新型コロナ対策の費用。所得税の課税関係は?

新型コロナから従業員を守ろう

2020年初頭から新型コロナウイルス感染症が日本を含めた世界中で大流行しています。
当然、企業活動にも大きな影響を及ぼしているのが実情です。その中で、会社を経営していくことの厳しさを痛感している事業主の人も多いでしょう。

さて、事業主には「安全配慮義務」が課せられています。簡単に言うと「従業員が病気やケガをしないため、快適な職場環境を保てるよう、最大限の努力をすること」です。今回の新型コロナウイルス感染症の場合は「在宅勤務を導入する」「マスク、消毒薬など感染対策グッズを支給する」「定期的にPCR検査を受けさせる」なども、この安全配慮義務の中に含まれます。

実際のところ「外出もほとんどせず、うがい手洗いなどの対策をぬかりなくしていたのに、新型コロナウイルスに感染した」という人も一定数いる以上「何をすれば大丈夫なのか」は断言できません。それでも、できる対策を講じるのは必要です。ある意味、従業員と会社を守るための必要経費ともいえる以上、所得税の課税関係=従業員にとっての給料に当たるのかどうか、については正確に理解しておきましょう。

ポイントは「業務のために通常必要かどうか」

考え方は非常にシンプルです。「業務のために通常必要かどうか」つまり、仕事をしていく上で欠かせない費用であるかどうかがポイントになります。

例えば「仕事中に着用するマスク、アルコール消毒液」「職場でクラスターが発生したため隔離場所として会社で予約したホテル」「従業員および顧客の安全を確保するために、会社で定期的に受けさせているPCR検査の費用」は、会社で仕事をするために必要な費用(経費)にあたるため、従業員に対する給与としては扱われません。この場合、会社側は消耗品費、旅費交通費、福利厚生費などとして、損金の額に算入できます。

しかし、これらが「従業員の自己判断に基づいて行った、使った」ものであって、会社が代わりに支払っていたという場合は、給与として所得税課税の対象となります。従業員に対して現物給付を行ったことになるためです。もちろん、この場合、会社側は給与として損金の額に算入することになります。

なお、国税庁のWebページには「5 新型コロナウイルス感染症に関連する税務上の取扱い関係」という形で、新型コロナウイルス感染症の様々なシチュエーションを想定した税務上の扱いについて解説するコーナーが設けられています。随時、様々な情報が追加されているので、こまめにチェックしておきましょう。

https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/kansensho/faq/04.htm

          

2021/06     

カーボンニュートラルのためにできることを。投資促進税制も上手に使おう

カーボンニュートラルとは

2020年10月に、第203回臨時国会の所信表明演説において、菅義偉内閣総理大臣は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする=カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを明確に宣言しました。実は、カーボンニュートラルを目指す取り組み自体は、世界各国で既に始まっています。例えば、2020年のアメリカ大統領選で勝利したバイデン大統領は、選挙の際にEV普及、建築のグリーン化、エネルギー技術開発等の脱炭素分野に約200兆円(2兆$)の投資を行うこと・既に公約していたのです。

参照:経済産業省「省エネ関連設備が活用可能な税制措置」
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saving/information/180323a/pdf/003.pdf

もちろん、日本でも環境省が中心となり、脱炭素ライフスタイルへの転換、RE100(企業が自らの事業の使用電力を100%再エネで賄うことを目指す国際的なイニシアティブ)への取り組み、地方公共団体へのゼロカーボンシティ実現への支援など、様々な取り組みをすでに行っています。

しかし、より取り組みを本格化させるには、企業による努力も不可欠です。

カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設

企業によるカーボンニュートラルへの取り組みを加速させるため、令和3年度税制改正において、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の創設が創設されました。簡単に言うと「脱炭素化を加速する製品を生産する設備を導入するなど、具体的な取り組みを行えば、税額控除が受けられる(結果として、税金が安くなる)」ということです。

実際にこの税制の恩恵を受けるには1)事業適応計画を策定するし、認定を受けること、2)何に対してどれだけ税額控除・特別償却ができるのかを理解すること、の2点が不可欠です。

まず、1)についてですが、脱炭素化を加速する製品を生産する設備(需要開拓商品生産設備)もしくは生産プロセスを大幅に省エネ化・脱炭素化するための最新の設備(生産工程効率化等設備)を導入することが前提となります。

また、2)についてですが、需要開拓商品生産設備の一環として機械装置を導入した場合、10%の税額控除と50%の特別償却が受けられます。一方、生産工程効率化等設備の一環として施策を講じる場合は、機械装置・器具備品・建物附属設備・構築物なども対象となる上に、5%(一定の条件に当てはまれば10%)の税額控除と50%の特別償却が受けられます。

実際にカーボンニュートラルに向けた投資を行う際は、かなり大がかりな機械装置・建物付属設備の導入が前提となるため、専門のメーカーやコンサルティング会社に相談することになるでしょう。税理士とも協議し「何をどうするのが自分の会社にとっては一番良いのか」を話し合った上で、利用を検討するのをおすすめします。
     

2021/05

コロナ渦で見直しを迫られた事業主必見!中小企業等事業再構築促進事業とは?

変えた方がいいのは分かるけど、先立つものがない!

日本で最初に新型コロナウイルス感染症の報道がなされてから1年以上たちますが、事態は一進一退を繰り返しています。ワクチン接種開始など、良い方向に向かう兆しは見えてきたものの、変異種が発見されるなど、ネガティブな材料もまだまだ多いのが現状です。

医学的な話をここでするのは避けますが、やはり経済への深刻なダメージが発生していることは、重大な懸念事項でしょう。資金力が潤沢にある大企業も、大幅な方針の転換を迫られていますが、そうでない中小企業にとっては「事業を続けるか、たたんでしまうか」の二択を迫られつつあります。

もちろん、思い入れがある事業なら、簡単に廃業したくないのが人情です。そこで

 飲食業なら、テイクアウト販売やオンライン出前サービスへの加盟を行う
 タクシー事業なら、一般貨物自動車運送事業の許可を取得し、料理の宅配サービスや買い物代行サービスを始める
 サービス業(例:ヨガ・ダンス教室)なら、オンラインレッスンを開始する

など、あの手この手で事業の見直しを図られています。しかし「うまくシフトできればいいけど、先立つものがなくて…」など、資金難を理由に見直し計画の実行に着手できない事業主もいるのが実情です。

このような実情を反映し、経済産業省は新たな施策として「中小企業等事業再構築促進事業
を打ち出しました。

中小企業等事業再構築促進事業とは?

中小企業等事業再構築促進事業とは、簡単に言うと、新型コロナウイルス感染症の影響によって

1. 売上が大幅に減っている
2. 事業再構築に取り組む
3. 認定経営革新等支援機関と事業計画を策定する

の3つの条件を満たす事業者に対し、最大で1億円(事業計画の実行に必要な予算や企業規模、その他の条件により異なる)を補助します。既に、第1回目の公募が3月26日から(応募締切は4月30日)から始まっていますが、令和3(2021)年度内に複数回実施する予定です。仮に、第1回目の締切に間に合わなくても、応募するチャンスは複数回あるので、自分の事業所が対象になるなら、ぜひ申請してみましょう。

なお、この制度の対象となるのは中小企業および中堅企業です。中小企業とは、中小企業基本法と同じく、資本金または従業員数が一定の基準以下(業種により異なります)の会社および個人を指します。また、中堅企業とは、中小企業の範囲に入らない会社のうち、資本金が10億円未満の会社を指します。「もしかしたら、自分の会社でも使えるかも?」と思ったなら、認定経営革新等支援機関として登録されている専門家(税理士など)に一度相談してみましょう。


参照:https://www.meti.go.jp/covid-19/jigyo_saikoutiku/pdf/summary.pdf?0331
     

2021/04

2021年4月1日から税抜表示はNGへ。乗り遅れた人向けの対応リスト

2021年3月31日まではOKだったものの

消費税増税が行われる度に、レジの設定変更、値札の貼り換え作業や各表示の変更など、様々な対応に苦慮してきた事業主の方は多いはずです。「消費税が増税になった時の作業を少しでも減らしたい!」と、今まで自分の事業所で扱う商品・サービスの値段を「10,000円(税抜)」と表示してきた人も少なくないでしょう。これだと、消費税率が変わっても、少なくともこの表示は変更する必要がないためです。

そして、2021年3月31日までは、このような税抜表示も、誤認防止措置を講じた上で利用することができましたが、2021年4月1日からは認められなくなっています。
なお、2021年4月1日を過ぎた時点で税抜表示をしていたからといって、罰則が科せられるわけではありません。

ただし、消費者が勘違いを起こすような価格表示を意図的にしていたと判断された場合は「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」に違反する恐れもでてくるので、早急に対応するに越したことはないでしょう。

乗り遅れた人向けの対応リスト

「まずいな、うち何も対応していないや」という事業者の人には、この機会に何をするべきかを洗い出してほしいところです。

行うべき対応を3つに分けると1)対象となる商品・サービス、2)消費者の利便性を保つためのポイント、3)具体的な表記の仕方、の3つを理解することが挙げられます。

まず、1)についてですが、一言でまとめると「不特定多数の消費者に向けた価格表示」ということになります。
例えば、

・ 商品に貼付する値札
・ 商品パッケージなどへの印字
・ 商品陳列棚
・ 店頭のチラシ
・ ポスター
・ 商品カタログ
・ ダイレクトメールなどにより配布するチラシ
・ インターネットの販売ページ
・ 電子メールなどの媒体を利用した広告
・ テレビ・新聞の広告 

が該当します。なお、見積書・請求書・契約書・事業間取引における商品カタログなどは、不特定多数の消費者に向けたものではないため、対象とはなりません。

2)についてですが「消費者がはっきりと認識できるようにする」ことが大事です。たとえば

・ 店内のわかりやすいところにアナウンスを掲示する
・ 値札の文字をある程度は大きくする
・ POPを活用する

などが考えられます。

また、3)についてですが「支払総額となる税込価格がわかること」が最低条件です。
そのため、税抜で10,000円の商品・サービスであれば「11,000円」で構いません。
より親切に、ということであれば「10,000円(税込11,000円) 」「11,000円(税込)」などを使うといいでしょう。
     

2021/03

フリマアプリで得た利益は確定申告が必要なことも。注意点を解説

生活用物品の処分かどうかがカギ

新型コロナウイルス感染症が流行したことで、在宅している時間をどうやって過ごすかが話題となりました。家にいる時間が必然的に長くなる以上、片付けに取り組み「自分ではもう使わないけど、捨てるのは忍びない」ものを、フリマアプリで売ってみた人もいたはずです。
そして、沢山売ればそれなりに売上が入るので「もしかしたら税金を払わなくてはいけないのでは?」と気になった人もいたでしょう。

所得税法では、譲渡所得の対象とならない資産について規定がなされています。
生活用動産の譲渡による所得もその1つです。生活用動産とは「家具、じゅう器、通勤用の自動車、衣服などの生活に通常必要な動産」と規定されています。

参考:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm

つまり、フリマアプリでよく取引されている

 子どもが小さいときに使ったおもちゃ
 着なくなったけど状態のいい服
 使わなくなったけどまだ座れそうなソファ

など「これまでの生活で使っていたものを処分する取引」によって得た収益は、所得税の課税されない譲渡所得にあたるため、確定申告をする必要もないのです。

判断に迷う場合は税理士に相談を

しかし、家の中にあるのは生活用動産だけではありません。

今では手に入らないような昔のレコードや、芸能人のファンクラブ限定品など「今の自分にとっては不要だし、生活に必要ではないけど、欲しい人にとってはお金を払ってでも欲しいもの」も存在します。
また、現状は厳しいかもしれませんが、海外で衝動買いしたブランド品を、「自分は使わないけど、状態がいいから」と売ってしまうことだってあるはずです。

このような「生活に通常必要でない動産の譲渡」をフリマアプリを通じて行った場合は、所得税が課税されます。

本来、所得税は所得(=売上ー費用)に対して課税されますが、この金額が年間38万円超(会社勤めをして給料をもらっているなら20万円超)なら、確定申告をして納税しなくてはいけません。フリマアプリの場合、売上の合計から購入者への送料などの経費を差し引いた金額を目安として考えるといいでしょう。

なお、国税庁の調査によれば2019年7月から2020年6月末までの1年間で、フリマ等の通販サイトで起きた所得の申告漏れ額は6億3,030万円 、追徴税額は7,797万円にものぼりました。

参考:https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2102/19/news045.html
 
本来は非課税であるものを課税であると誤解するならともかく、逆のパターンはかなり厄介です。判断に迷う場合は、自分だけで考えず、税理士に相談して、対応を仰ぎましょう。

2021/02

テレワークの諸費用は条件を満たせば非課税に。重要ポイントを解説

テレワークは通信費、電気代がかさむ

大手人材紹介会社・パーソル傘下のシンクタンク、パーソル総合研究所が行った調査によれば、2020年11月時点での日本全国における正社員のテレワーク実施率は24.7%とのことでした。

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000455.000016451.html

一見、低い数字のように思えますが、従業員が1万人以上の企業では実施率は45.0%にも達しています。一方、100人未満の場合は13.1%に過ぎません。つまり、企業規模によっても足並みが異なる、というのが実情のようです。

そして、テレワークを行うことで、これまでには考えられなかった問題が浮上してきました。それは「自宅の通信費、電気代がかさむ」ということです。オフィスに出勤して仕事をしている場合は、オフィスに設置されているパソコンを使って仕事をするのが基本なので、通信費や電気代を従業員が自ら負担することはまずありえません。

しかし、テレワークになると、自宅に会社支給のパソコンを持ち帰り、自宅のインターネット回線を使って仕事するのが前提になります。つまり、通信費や電気代は自分で負担することになるため、家計にも少なからず影響が及ぶはずです。また、自宅に自分の部屋がないため、状況に応じてシェアオフィスに行き仕事をする羽目になる社員も一定数います。

このような実情を鑑み、在宅勤務手当などの名目で電気代、通信費の一部を支給する会社も出てきました。しかし、今までテレワークを採用している企業自体が少なかったためか、税務上の取扱いが整備されていなかったのも事実です。

在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)のポイントは?

国税庁は、テレワークにかかる費用の税務上の扱いをまとめ、「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」として発表しました。

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0020012-080.pdf

ここでは、主要なポイントにのみ絞って解説しましょう。

まず、在宅勤務手当の扱いについてですが「毎月1万円を在宅勤務手当として支給する」など、一定額を渡しきることが前提で運用されている場合は、従業員に対する給与として課税しなくてはいけません。

一方「通信費、電気代、シェアオフィスの利用代金など、テレワークで発生する費用について、業務に使った分を計算して精算する」など、実費相当額を生産することを前提に運用されている場合は、従業員に対する給与として課税する必要はありません。

なお、会社によってはテレワーク環境整備のために、従業員に対しオフィスデスクやチェア、事務用品などを提供するケースもあります。この場合、会社を退職したり、テレワークをしなくなったりした場合に返還義務がある場合は「貸与」とみなされるため、従業員に対する給与として課税する必要はありません。しかし、返還義務がない場合は、従業員に対する現物給与として扱われるので、課税する必要が出てきます。    

2021/01

イベントのチケットは、払い戻さず寄附するのも一案。控除を受けるための流れを解説

イベントの中止が相次いだからこそ

2020年を一言で表すと「いろいろなことが想定外」な一年だったといえるでしょう。
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行に伴い、これまでの生活が一変してしまいました。

もちろん、イベントにもその影響は及んでいます。本来だったら7月に開催するはずの東京オリンピックなど、様々なイベントが中止になったのです。スポーツ観戦が好きな方なら「チケットを買ったのに」と、悔しい思いをされたかもしれません。

本来、これらのイベントのチケットは、主催者から払戻しに関するアナウンスが行われ、それに従い返金処理を進めていきます。しかし「何となく寂しい」などの理由で、まだ手元にあるなら、いっそ払い戻さず、寄附するのも1つの方法です。

スポーツ庁は、2020年4月30日に「チケットの払戻請求権の放棄を寄附金控除の対象とする税制改正」を行いました。簡単にいうと、対象にとなるイベントのチケットを持っている人であれば、主催者に連絡し、所定の手続きを行うことで寄附金控除ができ、結果として所得税が安くなる制度です。

寄付金控除の適用を受けるには?

ここで、寄附金控除の適用を受けるための簡単な流れを説明しましょう。

まず、自分が持っているチケットが、この制度の対象となるイベントのものかどうかを確認します。なお、スポーツ庁のWebページで、対象となるイベントの一覧が公開されています。

https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop01/list/detail/jsa_00002.html?fbclid=IwAR0CunWddQYdpF7h8ofPR1DHbgMRAG2P8GuZxc_hc4AGsgSidcJWelRIeEQ

次に、主催者に払戻を受けない意思を連絡しましょう。その後、主催者から「指定行事証明書」「払戻請求権放棄証明書」が交付されます。これらの証明書を、確定申告を行う際に、添付書類として税務署に提出すればいいだけです。なお、イベントのチケットは、手元に保管しておきましょう。

また、既に払い戻しを受けていたとしても、主催者に払戻分を寄附する旨を連絡し、その後、実際に寄附をする形でも、この制度が利用できます。

スポーツイベントやエンタメイベントは、不要不急の用事ではないかもしれません。しかし、人の心を豊かにするためにはやはりなくてはならないものです。一日も早く新型コロナウイルス感染症が収束することを祈りつつ、今はできることを続けましょう。